小学館
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はじめに
昨年のなでしこジャパンのW杯優勝以来、さまざまな書籍が出たが、以前からなでしこを追いかけていた江橋さんの本をやはり呼んでおこうと思い買ってみました。
直前に、トークショーで、江橋さんの話を聞いていた影響もあるのだが。
紹介
著者の江橋よしのりさんは、2003年以降一貫して女子サッカーを追い続けているサッカージャーナリスト。その江橋さんから語らられる、昨年の女子W杯の全てがここに詰まっています。
長く女子サッカーを追い続けていた、江橋さんだから見える事、そしてなでしこジャパンの偉業が伝わってくる一冊です。
2011.03.11
この本の序章は、2011.3.11から始まっている。言うまでもなく、あの東北地方太平洋沖地震があった日だ。なでしこジャパンは昨年(2011年)のアルガルベ杯を終え、ちょうどその日の午前中に日本に帰って来ていた日だった。
幸い、選手はチームは既に解散して、それぞれの所属チームのキャンプ地に移動していた為、大きな影響はなかった。
ただ、既に広く知られているように、東京電力マリーゼ所属だった鮫島彩や、元所属選手の丸山桂里奈もいた。丸山桂里奈が所属していたジェフレディースの練習場は液状化の影響でしばらく使えなくなったし、宮間あやの故郷の九十九里には津波がおしよせた。岩清水の故郷岩手県も震災の被害を受けた。
なでしこジャパンの女子W杯優勝は彼女たちの実力で勝ち取ったものだが、この震災がまったく影響がなかったかといえば、そうでないと思う。全てはここから始めっていると思わせる序章だ。
ぶちあったった壁と王者ドイツとの対戦
迎えた女子W杯、順調に進んだ事もあれば、よくない事もあった。
チーム最大の危機は、グループリーグ3戦目でイングランドに敗れた後だったと言う。
しかし、彼女たちは克服した。本来ならばグループリーグ1位で突破したいところを2位で突破したため、準々決勝は、ドイツとの対戦となった。大会連覇中の女王ドイツ。開催国にして、なでしこジャパンは過去に1度も勝ったことがない相手。だが、逆にこういう相手だったから、一つにまとまれたのかもしれない。
実の所、グループリーグ2位でドイツに当たった事が、この後の戦いを有利に進める事になった。
アメリカが2位突破だったため、準決勝の相手はスウェーデンvsオーストラリアの勝者。
アメリカとブラジルは準々決勝で当たるため、どちらか一方は姿を消す。嫌な相手のフランスも決勝までは当たらない。
こうして当たったドイツ。決勝点を上げたのはあの丸山桂里奈。
この本の中では特に書かれてないが、特に良好とも思われないジェフレディースの上村監督との関係(監督のブログ上からはね)。
ジェフレディースの練習場は震災での液状化によって使用できずに、走りこみ中心の練習メニューが組まれていたが、この成果がここにきて出た。
彼女自身もマリーゼ出身。活動休止中の元同僚に心を痛めていた一人だ。
開催国ドイツを破った事により、俄然注目を浴びる事になる。そして、ドイツのファンをも味方につける事になる。
導かれるように
地元ドイツに勝った事で、一挙に注目を浴びる事になったなでしこ。地元ドイツの人たちからも応援をうけるようになる。
さらに、ここを突破した事によって、準決勝のスウェーデン戦は相性のよい相手。快勝で決勝のアメリカ戦まで駆け抜ける事になった。
なでしこジャパンはアメリカ相手にただの1勝もしていない。引き分けですら少なく、圧倒的に負け続けてきた相手。
この本のタイトルにもあるとおりの「あきらめない心」で、彼女たちは2度追いついた。2回目勝ち越されたのは、延長前半終了間際。この状況から、あの澤の伝説のゴールで追いついたわけだ。
そして、PK戦を制して、女子W杯の栄冠に輝いた、なでしこジャパン。終章で語られているが、江橋さんは、急に増えた原稿依頼の為、なでしこジャパンより1日遅れて帰国する事になった。そこで目にした新聞記事を見て、初めてなでしこジャパンのなしえた快挙を実感する事になったそうだ。
それまで夢心地だったのが、新聞という媒体を通す事で、客観的に受け入れられて、初めてこみ上げてくるものがあったという事だ。
江橋さんは、なでしこジャパンを取材するようになってくる中で、母親白血病という重い病にかかり、取材をやめようと思った事もあるという。それでも、母親からの一言でこの日まで続ける事が出来たと。感慨もひとしおだろう。
最後に
江橋さんが、新聞記事を読んで改めて客観的に、なでしこジャパンの快挙に胸を震わせたように、自分自身もこの本を読むことであらためて感動している。
自分自身も、江橋さんと同様になでしこジャパンの試合をみるようになったのは、あのアテネ五輪予選の北朝鮮戦以降だったと思う。
あの試合を、観客席で見ていた川澄はいまや、なでしこジャパンのエースだ。
震災のあった年にやりとげた快挙。震災の事が関係しなかったとは到底思えない。実際、彼女たちも日本の事は頭にあったと思う。日本の為にとか、日本の皆さんに勇気を与えたいとか言ってみても、実際にそれを行動で示して、持てる力を十分に発揮してみせるのはとても容易な事ではない。
この本の終章で、江橋さんは、なでしこの未来を夢に見たという。少し先の未来。復興を遂げた東北の地で女子W杯が開催されている。そこに出場しているのは、2011年当時のW杯優勝の快挙を朝早くに目をこすりながら観ていた少女たちだ。